• 042-703-6333

  • 法人所属弁護士
  • ■ 橋本駅前弁護士事務所
      弁護士 片倉亮介
    ■ 裁判所前主事務所
      弁護士 伊藤信吾
      弁護士 伊藤平信
      弁護士 中山峻介
      弁護士 松本秦吉
橋本駅前弁護士事務所
(駅徒歩4分)



宅地建物取引 ワンポイントアドバイス

[3] 買付証明交付後の契約締結拒否が損害賠償の対象となる場合がありますか?

 買付証明を提出して不動産を買おうと思ったのですが,その後,色々思案をしてやっぱり契約を取りやめることにしました。
 そのことを売り主側に伝えたら,「すでに売買のために,駐車場契約を解除した。損害賠償を請求する」と言われてしまいましたが,法的には賠償の義務があるのでしょうか。

買付証明交付後に,売買契約の締結へ向けて,当事者が準備作業を開始した段階では損害賠償もありえます。
 動産の買主は売買契約を締結するまでは,契約上の責任を負うことはありません。そして,買付証明書は売買契約そのものではありませんので,それだけで売買契約締結と同様の責任を負うことはありません。

 しかしながら,買付証明交付後に,売買契約の締結へ向けて,当事者が準備作業を開始した段階においては,売主は「きちんと買ってくれるだろう」という期待を持つ場合もあり,それが社会的に合理的な期待である場合には,「契約締結上の過失」という理論により法的な損害賠償責任を負う場合があります。

 例えば,東京地裁平成20年11月10日判決では,不動産の購入予定者が不動産市況の悪化を理由に契約の締結を拒否したことについて,拒否の正当の理由がないとして,契約締結上の過失による不法行為責任が認められています。  判例は,「不動産市況の悪化それ自体は外部的事情ではあるが,その悪化によるリスクは,基本的には契約当事者双方がそれぞれの立場において負担処理すべき内部事情であって,誠実に契約の成立に努める義務を免除するような正当な事由とはいえない」と述べています。

 もっとも買付証明を出せば,全ての場合に上記のような法的責任が認められてしまうものではありません。

 この判例でも,
@買付証明書交付後の3ヶ月で7通の契約書案を作成していること
A最終的に売買契約の条件がほぼ確定していたこと
B売買に向けた準備行為として,配水管関係工事を実施し,駐車場契約を解除して明け渡しを受けたこと
等の事情が重視されています。

 これらの各事情から,売買契約締結への合理的な期待は保護されるべきものと考えられたと思います。

 なお,契約締結上の過失による責任は,売買契約が成立した場合の責任ほど重いものではありません。  具体的には,売買契約上の違約金規定が適用されることもありませんし,売買によって得られたはずの利益(不動産の仕入れ金額との差額)を損害として請求されることもありません。

 ここで認められる損害は,売買契約が締結されるであろうという信頼を裏切ったことにより直接的に被った損害に限られます。上記の判例では,@売買の前提となる配水管関係工事費,A売買をするために駐車場契約を解約したことによる収入減等が認められています。

 もっとも,かような具体的な損害も時として高額になる可能性もあるので,契約を締結しないいのであれば,相手方に過度の期待をさせないように早めに契約解消の意思を伝える必要があろうかと思います。