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宅地建物取引 ワンポイントアドバイス

[8] 建物明渡し請求の前に仮処分が必要な場合について

 家賃滞納者に対して,建物明け渡し訴訟を提起する予定です。
 しかし,先日,建物を見に行ったら,見知らぬ会社の看板が掲げてありました。見知らぬ人間も出入りしているようですが,賃借人自身も頻繁に出入りをしている状況で,現状が今ひとつよくわかりません。
 このまま提訴してしまって良いでしょうか。何か良い方法があるのでしょうか?

まず,占有移転禁止の仮処分をすることによって,誰が建物を占有しているのかを特定する必要があります。
家賃滞納者に対して明け渡しを求める場合,任意での明け渡し交渉が不調になった場合には,民事提訴(建物明渡請求訴訟)をするしかありません。民事提訴の結果,判決(場合によっては明け渡しを認める和解調書)を取得して,その判決(和解調書)に基づいて強制執行が可能となるのです。

 しかしながら,対象物件の現状が不明な場合には,提訴前に慎重な対応が必要となります。というのは,民事の判決を貰ったとしても,現在の物件占有者が当初の賃借人と別人であった場合には,その判決で強制執行をしようとしても,「債務者が違う」ということで強制執行が出来なくなってしまうからです。

 悪質な賃借人の中には,このような法的な抜け道を利用して,当初の入居者とは別人の占有者を賃借物件に送り込んで,明け渡しを妨害することもありえます。

 また,かように現実の占有者がいなくても,営業用物件などの場合に,その物件に「有限会社○○」などという表示をして,関係書類を置いておくだけで,場合によっては,そのような法人がそこを占有していると見られれば強制執行ができなくなります。

 そこで,このような「危ない賃借人」と思われる場合には,「占有移転禁止の仮処分」というのをしておく必要があります。これは,文字通り,賃借人が他へ占有移転をするのを禁止するための仮処分です。仮処分というのは裁判とは違います。裁判より前に,「仮」の処分として裁判所の決定により処分がされます(通常1〜2週間程度)。

この仮処分がされると,賃借人は賃貸物件の占有を他に移転することができなくなります。また,法律で「当事者恒定効」が認められています。簡単に言うと,仮処分後に占有を譲り受けたものにも判決の効力が及ぶということです。
 また,占有移転禁止の仮処分は,対象物件に執行官が赴いて,仮処分の公示をしますので,その際に物件の現状を確認することもできます。その時点で,占有者が別人となっていれば,その者を相手に訴訟を起こすことになります。

 なお,仮処分は,「保証金」を供託しなければなりませんが,「保証金」は全額戻ってきます。その相場は,居住用建物の場合は賃料の3ヶ月〜6ヶ月分,店舗事業用の場合には6ヶ月分程度とされています。
 もっとも,保証金は法律で額が決まっているものではないので,具体的には担当裁判官との折衝になります。

 なお,保証金とは別に,弁護士費用も15万円程度はかかるのが通常です。
 しかし,かような出費があるにしていも,過去において「保証金をケチらないで,仮処分をしておけば良かった」というケースがたまにありますので,仮処分をしてもしなくても同じだったというケースでも念のため仮処分をしておくことが必要でしょう。
 場合によっては,仮処分をした段階で,賃借人が諦めて,立ち退き交渉がスムーズに行くこともあります。